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と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、
盛子のお腹では、もう胎動がはじまつていた。
と、房一の近くで云ふ声が聞えた。今泉らしかつた。つづいて同じ声が
「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」
「はあ、見て参ります」
彼は自転車[#「自転車」は底本では「自転者」]にのつた。走り出した。風が頬をかすめた。房一の紅黒い、生真面目な、醜い、厚ぽつたい顔が目の前にのこつていた。
庄谷の細い眼が又微笑した。だが、その瞬間に現はれたほんの少しの人なつこさ、古い記憶のほのめきは、すぐ又大急ぎでどこかへ隠れこんで行くやうに見えた。
「御焼香を。――どうぞ、お近いところから御順に」
低地になつた野菜畑の間を抜けて、まるでどこかの城跡の石垣めいた、頑丈な円石を積み重ねた堤防の上に次第上りに出ると、いきなり目の前に、日を受けて白く輝き、小山のやうに持上り、凹み、或る所では優しげになだらかな線を引いた、だゝつ広い河原の拡がりが現れて来る。
「ハッパもいゝが、近頃は土方がいたづらをするとか云うて、女の子が下の方を恐はがつて通らんていふぢやないかね」
「おい、ビールは冷やしてあるかい」
「やっぱりチブスで?」