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云ひ終ると、直造は叮重ていちように頭を下げた。
と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。
――「おれみたいな息子ができるとは、全くどうかと思ふよ」
だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。
私は朝と夕方と真夜中に入浴する。朝、ぬるいうちに私がはいり、そのあと熱くして家族がはいる。それをほッとくと、夕方、私には手頃のぬるさとなっている。
来客の間にほつと寛くつろいだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。
盛子は急に思ひ出して不服さうな声を出した。だが、それは房一に向つて甘えながら不服を云つているやうな調子を含んでいた。
と、ちやうど追鮎箱のところへ立つて行きかけた徳次は、事もなげに云つた。彼はその水際のところでいきなりシャツをはぎとると、バシヤバシヤツと水洗ひをして、それを日に焼けた石の上に乾した。そのまゝ房一と小谷の前に来ると、美事な半裸体のまゝ腕組みをして突立つた。一種単純な、力づくといつた様子が現れていた。
男は始めにびつくりさせられて、今さう聞くと多少のみこめて来た様子であつた。どこも悪くないと云はれたこともうれしかつたらしい。房一はその腕をひつぱつて顕微鏡の前につれて行き男にのぞかせた。
その子供染みた好奇心に輝いている横顔は、この老人の胸の奥から恐らくその年齢と調子を合せてゆつくりと流れて来る悦びのためもあつたらう。その悦びの源泉はもとより房一にあつた。
あの鍵屋の法事の席には小谷も居含せた。彼はそこで殆どはじめてと云つてもいゝ位に高間房一を見、その思ひ切つた振舞を目にした。房一の去つた後では誰も何も云ひはしなかつた。彼等はたゞ黙つて見送つただけであつた。だが、房一の印象は強く皆の頭に灼やきつけられた。何かしら挑いどむやうな、強したゝかな足どり、――だが、それは表面筋が通つていて誹難することはできなかつた。
徳次は足を踏ん張つて立ち、まだそこら中を見まはしていた。房一はちらりとその顔を見たが、黙つて片づけていた。
「いゝえ、なんの。おれんとこへなんか。――あんたは忙しい身だもの」