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    気の毒であるから、風呂はわかさなくともいいぜ、と高橋に云うが、彼も私を気の毒がっているらしく、たいておく。親切はありがたいが、気の毒がられるのも、つらい。思うように仕事ができないと、フロたきの人たちに悪いような気持になるので、かえって負担になることがあった。

    第四章

    半シャツの男は房一の前に来て、はじめてお辞儀らしい格好をした。

    あの坊主は前からあんな頭をしていたのかしらん。――さう云へば、子供の時分いつしよに遊んでいるとき見たやうに思つた。――練吉はそんなことを考へていた。

    「へえ。――ズブツとね」

    そこに、房一は、酒のために紅くなつてはいるが、そして、まだ額のあたりに筋張つた色が立つてはいるが、稍やゝ前こゞみになつた半白の頭を見た。それは河原町の人などには見られぬ線の粗あらさとどぎつさこそあつたが、想像したよりもはるかに老人だつた。

    徳次は気が抜けたやうに、口のあたりをもごもごさせるきりだつた。

    その時、又あの鈍い重量のある音が下流の方からどよめいて来た。それは前のよりもはるかに大きく、つゞけさまだつた。

    「血圧は少し下つたしね」

    もちろん、むかしから湯治にゆく人があればこそ、どこの温泉場も繁昌していたのであるが、その繁昌の程度が今と昔とはまったく相違していた。各地の温泉場が近年著るしく繁昌するようになったのは、何といっても交通の便が開けたからである。

    「相沢の先代が生きている間は知吉さんも手が出なかつたのさ。目の上の瘤がなくなつたから、いよいよ本性を出したといふところだらう」

    庄谷の細い眼が又微笑した。だが、その瞬間に現はれたほんの少しの人なつこさ、古い記憶のほのめきは、すぐ又大急ぎでどこかへ隠れこんで行くやうに見えた。

    「をかしいから笑つたのだ」

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